07.04.14:14
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03.01.00:42
夜の金魚
金魚鉢の中で、金魚が跳ねる。真っ赤な鱗が、部屋の中のわずかな光をとらえてそれを反射させて、きらりと光る。
「私も、金魚だったらよかったのに」
そう言った私の言葉が、暗い部屋の中に溶けて消える。金魚は相変わらず、狭い金魚鉢の中をゆらゆらとたゆとうている。
魚類に、ほとんど感情はない。魚類どころか、哺乳類、鳥類、両生類、爬虫類、魚類と並んだ脊椎動物において、鳥類以下の動物に感情らしい感情はない。彼らの行動は知能や学習によるものではなく、本能や反射だけだ。
だから、金魚にも感情というものはほとんど存在しない。光に向かって泳ぎ、或る種の魚類は特定の形・色をしたものに向かって攻撃を仕掛ける。配偶行動ですら、信号刺激の連鎖でしかないということがある。
感情がない、というのは、どのような気分だろう。そもそも感情がないのだから、そんな気分もわからないだろう、と思いついて、私は苦笑する。丸い金魚鉢のガラスに、薄く私の苦笑いが映る。
感情がなければ、私はきっと、もっと安らかに過ごせるだろう。私はきっと、もっと幸せになれるだろう。こんな悲しい心を感じなくてもいい。こんな苦しい思いを味わわなくてもいい。金魚のように、ただただ光に向かって泳いでいればいいのだ。餌を与えられればそれに食いつき、水を抜かれてしまえばびちびちと跳ねまわり、もがけばいい。
それができないのは、私が人間だから。感情をもつ生き物だから。心を持つばかりに、悲しく、苦しい思いをしなければならない。
なぜ?と、問うたこともある。苦しいのは、誰のせい?悲しいのは、誰のせい?それを感じる心を持つ、私のせい?きっとそうではない、そうではない筈なのに、他の答えが見つからない。待っていても、誰も『答え』という餌を私に与えてはくれない。水の外でも生きていける私たちは、地面に足をつけて立つことのできる私たちは、その答えを自分で探さなければならない。
誰かに飼われている金魚は、自分で生きていくことができない。餌を与えられなければ飢えて死んでしまう。水から取り出されてしまえば、息もできずに死んでしまう。可愛いだけの、金魚。
「金魚だって、大変なんだよね」
私はそっと、金魚鉢の中の金魚に囁く。私にその命を握られていることも知らず、ゆらゆらと泳ぎ続ける金魚。
それが幸せなのか不幸なのか、私にはわからない。けれど、『この世界』という広い金魚鉢の中で、私はとりあえず足掻き続けなければならない。私は、餌を与えられるだけの金魚よりも、自分で餌を得ることができる人間でありたいから。
「おやすみ、私の金魚」
落ち込んだ気分を金魚鉢の中に落として洗い流し、私は明かりを消した。
END
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「私も、金魚だったらよかったのに」
そう言った私の言葉が、暗い部屋の中に溶けて消える。金魚は相変わらず、狭い金魚鉢の中をゆらゆらとたゆとうている。
魚類に、ほとんど感情はない。魚類どころか、哺乳類、鳥類、両生類、爬虫類、魚類と並んだ脊椎動物において、鳥類以下の動物に感情らしい感情はない。彼らの行動は知能や学習によるものではなく、本能や反射だけだ。
だから、金魚にも感情というものはほとんど存在しない。光に向かって泳ぎ、或る種の魚類は特定の形・色をしたものに向かって攻撃を仕掛ける。配偶行動ですら、信号刺激の連鎖でしかないということがある。
感情がない、というのは、どのような気分だろう。そもそも感情がないのだから、そんな気分もわからないだろう、と思いついて、私は苦笑する。丸い金魚鉢のガラスに、薄く私の苦笑いが映る。
感情がなければ、私はきっと、もっと安らかに過ごせるだろう。私はきっと、もっと幸せになれるだろう。こんな悲しい心を感じなくてもいい。こんな苦しい思いを味わわなくてもいい。金魚のように、ただただ光に向かって泳いでいればいいのだ。餌を与えられればそれに食いつき、水を抜かれてしまえばびちびちと跳ねまわり、もがけばいい。
それができないのは、私が人間だから。感情をもつ生き物だから。心を持つばかりに、悲しく、苦しい思いをしなければならない。
なぜ?と、問うたこともある。苦しいのは、誰のせい?悲しいのは、誰のせい?それを感じる心を持つ、私のせい?きっとそうではない、そうではない筈なのに、他の答えが見つからない。待っていても、誰も『答え』という餌を私に与えてはくれない。水の外でも生きていける私たちは、地面に足をつけて立つことのできる私たちは、その答えを自分で探さなければならない。
誰かに飼われている金魚は、自分で生きていくことができない。餌を与えられなければ飢えて死んでしまう。水から取り出されてしまえば、息もできずに死んでしまう。可愛いだけの、金魚。
「金魚だって、大変なんだよね」
私はそっと、金魚鉢の中の金魚に囁く。私にその命を握られていることも知らず、ゆらゆらと泳ぎ続ける金魚。
それが幸せなのか不幸なのか、私にはわからない。けれど、『この世界』という広い金魚鉢の中で、私はとりあえず足掻き続けなければならない。私は、餌を与えられるだけの金魚よりも、自分で餌を得ることができる人間でありたいから。
「おやすみ、私の金魚」
落ち込んだ気分を金魚鉢の中に落として洗い流し、私は明かりを消した。
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