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CRWが書いた小説なんかがメイン。 ジャンルは主にホラー系、青春系。 怖くて、そして共感できるような小説を目指して奮闘中。
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07.01.19:26

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  • 07/01/19:26

03.25.23:51

満月ブギ

姉と妹がいなくなってから、もうどのぐらい経ったのだろう。返せなくなった借金の代わりに、女郎屋に売られていった姉と妹がいなくなってから。

姉は十八歳、妹は十六歳だった。



色の白い姉妹だった。売られていったあの日に降った雪のように、二人は色白だった。そういう僕も、肺病を患った患者に特有の色の白さだったが。『色の白きは七難隠す』とはよく言ったもので、顔立ち自体はわずかに秀でて美しかっただけにもかかわらず、その白さが二人を更に美しく見せていた。

その美しい姉妹が、毎日毎日違う男に抱かれているのだと思うと、ひどく複雑な気分になる。彼女らは、結核の僕の病院代を稼ぐために体を売っているのだ。感謝すべきなのだろうが、どうしてもそういう気になれない。病院代は、かなり高い。彼女ら自身の借金や家の借金を返さなければならないのに、その上更に僕の病院代まで払うとなると、並の働きでは到底追いつかない。姉と妹は、二人でそれらをすべて払う為に身を粉にして働いている。



一度だけ、二人を見に行ったことがあった。東京の病院に行った時、両親の目を盗んで姉と妹が働いている女郎屋へ行ったのだ。行ったと言っても、影からこっそりと覗いただけだ。

ちらりと、姉の姿が見えた。白豚のようにでっぷりと太った、いやらしい顔つきの男と並んでいた。姉は顔を伏せていた。少しやつれた様にも見えたが、売られていく前と比べても美しさは変わらなかった。寧ろ、『穢れた』様子はなく、更に清らかになった印象を受けた。

姉が、ふと顔を上げた。一瞬しか見えなかったにもかかわらず、陰から様子を覗いていた僕と目が合った。しかし、帽子をかぶりマスクをしていた僕を僕と分かったようではなく、またすぐに顔を伏せた。そのまま姉は、店の奥へ消えた。

今度は妹を探そうとした。確か姉と妹は、一緒の店で働いていたはずだ。しかし、あまり長い間外をうろつき回るのは良くないと医者から言われていた。仕方なく、僕は両親のもとへ戻った。



妹の姿を見ることもなく、僕は東京から帰り、そのまま地元の病院へ入院した。





姉の姿を女郎屋で見てから、五年後。姉が死んだという連絡があった。姉は、白い骨になってうちに帰ってきた。連絡してきた者によると、姉は客から性病をうつされて死んだのだという。

僕と両親は、姉の遺骨を先祖代々の墓におさめた。



妹からの連絡は一切なかった。病院代と返済用の金だけが、毎月送られてくる。手紙などは一切なく、ただただ金だけが毎月送られてくる。

僕の体がよくなって退院したことを告げる手紙を出すと、借金の返済用の金だけが送られてくるようになった。借金返済も完了したという手紙を出すと、なにも送られてこないようになった。こちらの近況を知らせる手紙を出しても、一向に返事が来ない。そのうち、僕らも手紙を出さなくなった。妹の存在すらも、忘れがちになっていった。







お兄ちゃん。

お兄ちゃん。

助けて、お兄ちゃん。



何度も兄の名前を呼んだけれど、兄は助けに来てはくれない。助けになんて来ないということは分かっているのに、それでも私は助けを求めずにはいられない。

薄汚い男たちに抱かれるたびに、私は来ない助けを求めている。

快楽のためではない涙を流しながら、私は来ない助けを求めている。



大好きだった兄。結核を患ってからは遊んでもらうことはなかったけれど、結核を患う前の兄にはよく遊んでもらっていた。優しかった兄。私に微笑みかけてくれた兄。

いつしか兄を思う感情は、家族を想う気持ちではなく、恋人を想うそれに変わっていった。

それに気づいた時、私は戸惑った。だれにも打ち明けられなかった。女郎屋で仲の良い子にも、とても言えなかった。家に送る金に手紙を添えようとしたけれど、何を書いてよいのかわからなかった。手紙に書けるような毎日ではなかったし、例え兄に向けて手紙を書けば私の想いが露呈されそうで恐ろしかった。だからいつも、手紙は添えず、金だけを送っていた。

兄の病院代がいらなくなったという旨を伝える手紙が来たときは、とても嬉しかった。けれど、筆を動かすことはできなかった。相変わらず、手紙を添えず金だけを送る。家族はあちらの近況を伝える手紙を送ってくれるが、それを読んでいると、ひどく悲しい気持ちになる。読むのがつらくなってからは、それまでは少しばかり楽しみにしていた家族からの手紙を、封を切らずに捨てるようになった。



暫くしてから、姉のさき江が死んだ。客に性病をうつされたらしい。悲しいと思ったのに、涙が出なかった。悲しいと思ったのは本当だけど、安心したと思ったのも本当だった。

姉は、兄と仲が良かった。兄は私にとって良き兄であったが、姉にとっても良き弟だった。病気で手のかかる弟をよく気にかける、面倒見の良い姉。私も姉に面倒を見てもらっていたから、兄も私もよく姉に懐いていた。

その姉が死んだのに、安心したというのはどういうことだ。私は暫くの間、自分自身を責めた。

兄からの手紙にも、姉の死を悲しむ様子が書かれていた。正直、私は姉に嫉妬した。こんなにも兄に想われていた姉。醜いとは自覚していたが、どうしても嫉妬せずにはいられなかった。

嫉妬した後は、優越感に浸った。姉はこんなに兄に想われていたけれど、もう死んだ。兄の寵愛を受けるのは、これからは私一人だ。私が、兄を独り占めするのだ。











妹の存在自体を忘れてから十年。

すっかり結核も治り、僕は東京見物に出かけた。結核を病んでいた頃とは、随分と顔つきも変わったと言われた。

ふと、妹のことを思い出した。借金の返済も終わってからは、彼女とはすっかり音信不通になっていたが、東京駅に着くなり不意に思い出したのだ。

僕は、あの女郎屋へ行ってみることにした。



「あの、ここにみき江という女はいますか」

店の外で掃除をしていた男に尋ねてみたが、男は首を振った。僕は妹の写真を持っていなかった。たとえ持っていたとしても十年も前のものなのであまり使い物にはならなかったであろうが。妹が売られていったのは十六の時だ。今は二十六になっているはずだ。十六の娘と二十六の女では、随分と変わってしまっているだろう。

僕は店を出ると、暫く辺りを歩き回った。



立ち並ぶ女郎屋の雰囲気にあてられたのか、僕はふらふらと一軒の女郎屋へ入った。そこで、一人の女郎が目に入った。

顔立ちが、かすかに妹に似ていた。まったく別の女かもしれない。だが僕は何かに操られるように、その『宮ね』という女を抱くことに決めた。



「お兄さん、私の兄さんに似てるよ」

「お前も、僕の妹によく似ている。生きているのか死んでいるのかは分からないんだけどね」

「妹さん、お嫁にでも行ったの?」

「いや、十六の年に女郎屋に売られたんだ。ちっとも手紙を寄越さなくてね。生きているのか死んでいるのかもわからないのさ」

妹によく似た宮ねの身体を愛撫しながら、妹の話をしてやった。近くで見ると、ますます似ている。本当にこの女は妹なんじゃなかろうか、と思いながらも、柔らかく白い肌を撫でる手を止めることができない。

宮ねは宮ねで、うふふと笑いながら僕に身を委ねる。くっと指を曲げてやれば切なそうな、押し殺した声を出して喘ぐ。なぜだか僕はひどく興奮して、僕はすぐに宮ねに自身をあてがって貫いた。

僕たちは同時に、頂点に達した。





ふた月ほどして再び東京見物に出かけ、またその女郎屋に行った。そこで、宮ねは死んだと聞いた。姉と同じように、客から病気をうつされて死んだのだという。

僕はとぼとぼと店を出た。がっかりしているのか、安心しているのか。僕自身にも、わからなかった。



望めるなら、もう一度宮ねを抱きたい。真っ白な肌をした、妹によく似た宮ね。もしかしたら、本当に僕の妹だったかもしれない宮ね。

兄妹で交わるなど畜生のすること、と苦笑したが、欲望だけはなぜか心に燃え盛って消えることがない。

あの夢か現かわからない時間。

今望むのは、あの時間を繰り返すこと。繰り返し繰り返し、兄妹など超えて抱き合うこと。

しかしそれはかなわない。かなわない。





今宵もシネマで月が泣いている

今宵もシネマで月が泣いている

僕の夢を今夜返してよ

今宵もシネマで月が泣いている

END



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